千空の場合 2

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 しかし、その逃走劇もそろそろ終局を迎えようとしていた。  高速で飛翔する機械の内の一機が、隣を飛ぶ僚機とドッキングし、アーム部分を大型の砲身に変形させる。  フィーがそれに気付いた時には、砲身の奥に膨大なエネルギーを含む光が収束し終わっていた。  大気を震わす音のない狙撃。  衝撃波がフィーに追い付いた頃には、彼女の翼の二枚は光の矢に撃ち抜かれて融解していた。  安定を失い、失速するフィー。  砂埃をまき上げてなんとか着地した彼女の背を目掛け、時代がかった細身の刀を構えた男が、バイクに乗ったまま突進して来る。  赤髪の少女はすぐさま肩に装備した薄い金属片──いや、紙片だろうか──の一枚を引きちぎり、小さく呟く。  同時に、撃ち抜かれた二枚の翼と健在な四枚の翼は糸がほどけるように形を失い、少女の両肩へ収束。  そのまま小さな紙片へと姿を変えた。  どうやらこの少女は、両肩に装備した紙片を様々な物へと変化させ、それを元の紙片の姿に戻す力を持っているらしい。  迫る重装甲のバイクと凶刃。  巻き上がる土煙。  少女と男がすれ違った瞬間、嫌な音が響き、しかし驚いて後ろを振り返ったのは無防備な少女の方ではなく、優位であったはずの男の方であった。  赤髪の少女の周りには、無数の巨樹が姿を現し、今なお目に見える凄まじい勢いで成長を続けている。  男の振るった刀は巨樹の一本を斬り倒していたが、その刃は僅かに少女には届かず、しかも細かな根が装甲二輪のタイヤに絡まり、男は仕方なくそこから飛び降りた。  主を失ったバイクはそのまま転倒し、樹の根が絡まった前輪が弾け飛ぶと同時に炎上する。 「……確か“皇樹の侵林”といったか。リピテルの話によれば、そう長くは実体化させられないらしいな。万策尽きたか?」 「…………」  刀を構え直す男に対し、少女は無言を貫く。  巨木を一刀両断してしまうようなとんでもない男に加え、自律的に動いていると考えられる飛行人形が二機。  紙片の力で大量の巨樹を出現させた事で、飛行人形の動きはある程度なら牽制出来るかもしれないが、これは少女にとってあまりにも不利な状況と言えよう。
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