大樹の場合 1

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 赤い髪の人形が口を開く。  紡げるはずの無い言葉を形にする為に、口を開く。  ──まさに、その時だった。  べり。  と、音がした。  生理的嫌悪を誘う、嫌な音がした。  まるで、鉛筆を力任せに紙へ突き立て、そのまま貫いたかのような、そんな音に似ていた。  が、ただそれだけの音なのに、まるで全身に蛆が涌いたかのような強烈な嫌悪感を感じずにはいられない。  音がしたのは、すぐ近くだ。  今のは一体何だったんだろう? 「いけない! 早く答えてください!」  答えかけた何かを飲み込み、突然急かしだす少女。 「答えるって……何をだよ?」 「ですから、“何か特殊な力は無いのか”です! 幻想則の弱いこの世界で、術法の類は期待していません! 道具だろうと生物だろうと何でも良いですから、とにかく何か特殊と感じられるだけの力を持つ物を!」 「そんな事、急に言われたってな……何をもって特殊と定義するんだかも分かんねーし」  大体、それが何になるって言うんだ?  俺には赤髪の意図が全く読めなかった。  何とも言えない嫌な気配だけが辺りに充満していくのが気がかりで、ろくに頭が働かない。 「えっと、か、怪獣とか……?」  赤髪の少女のただならぬ雰囲気に気圧されながらも、由加が恐る恐る答えた。  律儀だ──とは言わない。  確かに俺は、質問には答えると最初に約束したんだし。 「怪獣? また漠然とした物を──仕方ありませんね、少し失礼します」  由加に歩み寄りその額に手を触れる少女。 「読解[reading]」 「お、おい! 何を──」 「…………」  赤髪は答えない。  由加も困惑した表情をしているものの、特に抵抗する素振りは無さそうだ。  しかし少女はすぐにその額から手を離し、肩を落とす。 「駄目ですね。このような無差別に土地ごと破壊してしまうようなものを解き放ってしまえば、“ドール”は撃退できても“ワーム”は余計に加速させてしまう」 「え、何っ!?」  由加の混乱が更に増す。  蚊帳の外である俺は、輪をかけて状況が理解出来なかった。  こんなじゃ、整理して、吟味して、判断して、結論を下す事すら出来やしない。 「いま貴方が想像したもの、これは空想上の存在ではないのですか?」 「確かに映画の中のものだけど……」
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