大樹の場合 2

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 本当にそんな“0+1=2”みたいなインチキはあり得るのだろうか?  でも。  もしこれが本当ならば、間違いなく由加も俺も助かる事になる。 「安心するには早いぞ? 代償としてお前は一度命を落とさねばならぬ。その苦しみと恐怖は、お前の想像を絶する物となろう。その試練を乗り越える覚悟はあるのかね?」 「やってくれ。もうあまり時間が無さそうだ」  俺は迷わなかった。 “再生”が嘘か本当かなんて、本当は関係が無いんだ。  これに賭けなければ、俺は灰色に飲み込まれて消え去ってしまうのだから。  由加を助ける事も、由加との約束──生き残るという約束も果たせないままに。  辺りは既に、風景の五分の一近くが灰色に塗り潰されていた。  このままじゃ、手遅れになってしまう。  それは何より避けるべき事態だ。  迷っている間に機を逃すなんて、愚かしい事この上ない。  揺るぎ無く答えた俺に、再生天使と名乗った白い男は少しだけ驚きの表情を浮かべたが、すぐに元の無表情に戻った。  俺の返事は彼が求めるものであったようである。 「賢明な判断だ、では早速始めよう」  天使が右手を頭上に掲げる。  その大きな袖口に隠れた手には、何か小さな物が握られているように見えた。  …………?  しかしそれに対して疑問を抱く前に、べり、と音がして空間に灰色の亀裂が走った。  それは、天使の右手があたかも何も無い空間を切り裂いたかのように、彼の頭上に縦一文字に刻まれている。  亀裂は次第に厚みを持ち始め、拡大した亀裂はすぐに小さな穴と姿を変えていた。  あちこちで世界を侵している穴。  その光どころか闇すら存在が許されぬ無の彼方から、一枚の羽が現れる。  ……違うな、あれは純白の羽をあしらったダーツの矢だ。  綺麗な羽飾りは三十センチメートル程の長さがあり、だからこそ一見しただけではそれがダーツの矢だとは気付きにくい。  しかし、先端にはしっかりと鋭い針が、鈍い光沢でもって己の存在を主張していた。
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