大樹の場合 2

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 由加が“再生”とやらに同意を示したという事は、少なくとも由加の方は俺を蘇生させるつもりなのだろう。  そして、その前に俺の命を奪う事にも決して否定的ではないようだ。  蘇生した俺は、果たして本当に俺でいられるのだろうか。  この由加のように、同じなのに違うナニカに変貌してしまうのだろうか── 「いいだろう、ただし質問は二つまでだ。それ以上は許さぬ」  己の優位性を強調したいのだろう。  あるいは、本当に俺に情報を与える事が面白くないのか。  糞天使は俺の提案から質問数を一つだけ削り、ようやく渋々と承諾の意を示した。 「……ありがと」  そう言って由加はこちらに向き直る。  再び俺と、正面から目を合わせた。  いつになく神妙な顔つきの彼女を見ていると、その言葉信じても良いような気になってくる。  しかし、俺は心の中で自身に喝を入れ、情報収集に徹する覚悟を決めるのだった。  俺は知らなければいけない。  俺は打開しなければいけない。  俺は約束を果たさなければならない。  その為に、俺は奴等の一挙一動を見逃してはいけないのだ。  足を怪我した俺には、逃げ場など無いのだから。 「私ね、実は県外の大学を受験する事に決めてたんだ。大樹は地元で就職するんでしょ? 滅多に会えなくなるはずだったんだよね」  大学受験。  ああそういう事か、と俺は理解する。  別れよう、というのは確かに嘘だった。  滅多に会えなくなるとなれば、今よりは疎遠気味になるのは仕方が無い事だ。  例え、毎日電話で話したとしてでも。  例え、毎日メールでやりとりしたとしてでも。  それを突然告げたら俺がショックを受けるだろうから、だから彼女はよりショッキングな嘘をクッションにして、その後で俺に真実を告げるつもりだったんだ。  真実を告げられなかったのは、赤髪の乱入のせいで話がうやむやになってしまったからである。  やはりあったのだ。  彼女の嘘には必ず理由があるのだ。  別れ話の時に目を逸らした、その理由が。 「陸上、本格的にやりたかったから──でも、もうどうでも良いんだ」  理由は明白。  世界は無くなってしまうから。  ワームとやらに飲み込まれてしまうからだ。
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