大樹の場合 3

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「なあ、元々リピテルが居た世界って、どんな所だったんだ? 奴がこの世界の外から来たんじゃねーか、ってのは何となく肌に感じてる。ああいった物は、この世界にあっちゃいけねーもんだ。たぶん」 「おっしゃる通り、彼も、私も、“ここ”ではない場所より来た異物です」  異物。  それは、一つの集団に混入した、集団を定義するカテゴリから外れた存在を指す。  赤髪の異常な運動能力も、糞天使の羽矢も、明らかに異物だ。  俺の住む世界のルールに、あってはならないもの。  彼女は、あっさりとそれを認めてしまった。  ついでに、“こことは違う外の世界が存在する”事も。  非科学的な現象を信じられない自分と、それらの存在を認めて対策を立てねばと急かす自分が、心の中でせめぎ合う。  そんな俺にはお構い無しに、赤髪は話を続けるのだった。 「彼の故郷は、もうかなり前にワームによる被害で消滅したらしく、私も詳しくは知りません」  ふむふむと頷いた俺は、思考を切り替えた。  実際に目の前で起きた現象を最優先で信じる事が、今は一番手堅いと言えよう。  俺が持つ常識が役に立たない事は、身を以て嫌というほど体験したのだから。  問題の仮説については、可能性が無いとは言いきれないが、証拠が全く無い──といった所だろうか。  なんとか虚を突いて、奴にボロを出させる必要がある。  しかしこれは、上手く使えば揺さぶりになるかもしれない。  ひょっとして今の俺、ちょっと冴えてるかもしれないな、と自画自賛してみるのだった。  俺の独り言の真意を量りかねて、赤髪は頭の上に“?”マークを浮かべているが、俺はあえて気にしない事にした。 「あとは……そうだな。俺、助かる見込みってあるのか?」 「難しいと思います。けど、手段自体は無い事も無いですね」 「へえ、この穴だらけになった世界で生き延びる方法は、本当にあるのか」  どこに逃げても同じという答えを予想していただけに、この答えに俺は素直に驚いた。  つまり、糞天使はこの世界から俺達を連れ出せると言ったが、あれに限って言えば奴の言葉には真実も含まれていた事になるからだ。
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