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……いや、その認識すら間違っていたようだ。
よく見れば、それは銀色の無地の栞ではなく、細かな銀文字がびっしりと書き込まれた“白い”栞だった。
その緻密さは耳無し芳一も裸足で逃げだすのではないかという程で、偏執的というか病的とさえ言っても良い。
ここまで細かい文字は手書きで書き込む事は不可能だろうし、そもそも細かすぎて肉眼で読むこと事態が困難そうである。
至近距離で目をこらして見れば辛うじて文字と分かりはするものの、それが日本語かどうかすら怪しかった。
異様な紙切れだ。
「……栞、ね」
「はい。しかしこの栞は使用済みなので、図書館に帰るまでは使用出来ません」
に彼女が左肩に小さな金具で留めている栞とやらは、確かに銀文字で一杯であった。
「使用済みって?」
「これには“皇樹の侵林(オウジュノシンリン)”に関する記述がしてあり、この本の中で一度だけ使う事が出来ます」
皇樹の侵林。
聞き覚えのあるその言葉に、俺は首をかしげる。
が、すぐにそれに思い当たり、思わず声を荒げてしまった。
「皇樹の侵林だって!?」
「はい。貴方と由加さんが、喫茶店に入る前に見た映画──それのタイトルが、“皇樹の侵林”でしたよね?」
確かにその通りである。
その事を一度話している以上、赤髪がそれを知っている事自体には不自然は無い。
問題は、皇樹の侵林なんて物は存在しないという事だ。
あれは映画の中にしか存在しない、架空の樹である。
が、俺は気を失う前に確かに見ているのだ。
硬いアスファルトを突き破って、俺を守るかのように生えてきた木の幹や根を。
彼女の言葉を鵜呑みにするなら、何らかの方法で手に入れた皇樹の侵林の情報を栞とやらに記憶させて、それを実体化した……と取れなくも無い。
非科学的な事この上ないのだが、今日一日の間に“絶対にあり得ない”を幾つも目の当たりにした俺としては、それを全否定するだけの材料も持ち合わせていないのだ。
混乱し始めた頭を整理するため、俺は深く深く息を吸い込み、一気に吐き出した。
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