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「しかし、皇樹はこの世界にも実在しない空想上の怪樹なので、存在が安定していません。よって、すぐに力を失って消滅してしまいましたし、下手をすれば再現に失敗していた可能性もありました。実在する力ならば、安定性は段違いなのですが」
「ふうん、皇樹はあの時一度きりの切り札だった、って事か」
身代わりになって爆砕された太い幹を思い出し、俺は肝を冷やした。
二度目が無いのはもちろん、あの時もしかしたら木が生成出来ずに、俺の方が砕け散っていた可能性もあったという──彼女の言を信じるならば。
地面を割って生えてきた木々も既に消滅してしまっているらしいし、今後あれを当てにする事は出来まい。
そうなると、あの糞天使から逃げ切る、あるいは奴にぎゃふんと言わせる為には、何か別の手を考えなくてはいけない事になる。
俺と赤髪の手駒は、最早何も残っていないのだ。
強いて言うならば、彼女の超常的な身体能力くらいだろうか。
改めて少女の体に視線を移す。
俺は同年代の連中と比べれば、正直な話、小柄で非力な方と言えよう。
現役でスポーツをやっている由加には体力で勝てるとは思えないし、長身の糞天使には体格的に劣っていると認めざるを得ない。
しかしこの仏頂面の赤髪は、その俺よりも更に小柄で華奢なのだ。
どこにあれだけの腕力や脚力があるのかと考え、そして俺はすぐに思い当たる物を発見した。
「ん? 栞の厚さ、右と左で少し違うな?」
「あ、はい。よく気が付きましたね」
そう。
よく見れば、明らかに片方の栞が少しだけ厚いのだ。
しかし俺は、その理由には既になんとなく察しが付いていた。
「右肩に装備していた栞の一枚に、“強化”が記述してある物があります。これは現在も効果が継続中ですから、肩から外してあるんです」
「強化……」
「読んで字の如し、ですよ。ドールと呼ばれる者達を撃退する為、今回はこの強化の栞の効果で戦ってきました。元々私の身体の基本性能自体が“この本”の一般人より高めに設定されているそうですが、それだけでは彼らには対抗できませんから」
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