大樹の場合 3

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 確か赤髪は、図書館は安全だと言っていたのを思い出したからである。 「図書館には司書さんさんがいらっしゃいまして、白紙の栞は彼が用意してくれるのです」  司書さん“さん”って……  赤髪のおかしな物言いに苦笑しつつ、俺はここにも余計な突っ込みを入れずに話を進める事にした。 「まぁいいや。とにかくそいつに何も情報が書き込まれていない栞を用意して貰えば、俺達は糞天使を振り切ってここから脱出できるって寸法だな!」 「考え方はそれで良いです。ただ、問題もありまして……司書さんさんは常に中立の立場を取る方なので、素直に栞を渡してくれはしないと思うんです」 「中立?」 「私にも、貴方にも、リピテル達にも、全てに公平という事です。直接私の元へ栞を届けてくれる事はないでしょう」  思わず「そいつ、味方なんだよな?」と赤髪に訪ねると、彼女はいいえと答えて頭を振った。  中立というのは、どちらにも味方をしない、あるいはどちらにも平等な条件で手助けする、という事だ。  頼めば栞は用意してくれるようなので、司書なる人物は後者と見るべきだろう。 「私もそう思いますが……なにぶん役目というか立場を気にする方ですから。彼が言うには、“君だけに力を貸すのはフェアじゃないからね”だそうです。あの方は完全に私達の味方という訳ではなく、本当の意味で中立の立場なんですよ」  そう吐き捨てるように呟いて俯いた彼女は、どこかうんざりしたような口ぶりである。  俺はといえば、赤髪だけに力を貸すのはフェアじゃない、というフレーズに引っ掛かりを感じていた。 「あの方は本への介入を嫌うので、おそらく送ってくださる白紙の栞は一枚限りでしょう。それを発見しない事には、脱出は不可能と思われます」 「どこに栞があるのか、ヒントは無えのか?」 「ヒントはありません、あの方は私だけに贔屓したりはしませんから」 「つまり、あの糞天使が先に発見しちまう可能性もあるって事か……」  引っ掛かりの正体は、まさにこの事だった。  せっかくの白紙も、先に糞天使に回収されてしまっては意味が無い。  今度こそ俺達は、完全に打つ手を失ってしまうだろう。
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