大樹の場合 3

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「司書さんが栞を送ってくださるのは、貴方のみが何の力も持たない不公平な立場にあるからです。しかし貴方に白紙の栞を直接渡してしまう事は、共に行動している私がそれを使用可能になる為、リピテルに不利な行動となってしまいます」 「つまり、誰に対しても平等な条件で、かつ俺が助かる方法だけを用意してくれる、って事かよ」  面倒臭え奴だなーと呟いて肩を落とした俺だったが、それでも生き延びる方法が無い訳ではないという事実が、少しは気を軽くしてくれていた。  白紙の栞があれば、何でも出来る。  それは「アラジンと魔法のランプ」に登場したランプのように、赤髪の力量の範囲においてならば何でも出来るのだ。  それはとても甘美な誘惑でもある。  そう、その気になれば── 「その気になれば、発見した白紙の栞を使う事でリピテルに復讐する事も可能です。もちろん栞を使ってしまう為、本からの脱出は叶わなくなりますが」 「興味ないな。たとえ復讐を果たせても、その後自分も世界の崩壊に巻き込まれて死んでりゃ世話ねーぜ」 「しかし、もう貴方には何も残されてはいません。白紙の栞では、失われていく本を修復する事も出来なければ、由加さんを取り戻す事も出来ないのですよ?」  それはもっともな意見だし、俺も同じ事を考えなかったわけではない。  放っておいても、世界はじきに虫食い穴によって消えてしまうのだろう。  栞を使えば復讐を果たさずに図書館とやらへ逃げる事も可能だが、引き換えに俺はこれまでの十六年間で得た全てを失ってしまうのだ。  生きる目的を失って脱け殻のようになってしまう位なら、ここで派手に最期の花火を上げた方が良いのではないか、という考え方もある。  無論、そんな事をすれば赤髪も図書館とやらに帰る方法を失ってしまうのだが、それを承知の上で、彼女は俺に決定権を委ねると言っているのだ。 「あんたは、俺に戦えって言うのかい?」 「それは貴方の意思次第です」 「俺が戦うと言えば、あんたは力を貸してくれるのか?」 「全力で。私の目的は、青の魔宝を使う者を消し去る事。リピテルをこの場で倒せるならば、消滅なんて怖くはない」
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