大樹の場合 3

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「貴方達は、特に由加さんは“主役”ですから」 「……意味が分かんねー」  俺の答えは予想していたとばかりに、彼女は深い溜息を吐き出した。  それは俺の無知と無理解を歎く物ではなく、単に無知と無理解を羨むような、そんな溜息だ。  こんなにも異常な現象が続き、神経が麻痺してしまっている俺でさえ、受け入れ難い何かがあるようだった。  オーケイ、納得は出来ないけれど、問い詰めるのは後回しだ。  急がなきゃ赤髪の強化が切れてしまうし、追加で配置されるという栞も糞天使に奪われてしまうかもしれない。  まずは生き延びなくては、理解も何もあったものではない。 「……まあいいさ、詳しい話は図書館とやらで必ず聞かせて貰うからな。まずは、俺がよく行く場所から回ってみるよ」  まずは自宅と学校が優先だ。  次は、由加と一緒によく立ち寄る場所を探してみよう。  俺は要領を得ない話を切り上げ、現実に目を向けた。  灰色の虫食い穴は、非常にゆっくりではあるものの、目視でも分かる程度の速度でじわじわと広がり続け、そして穴の数自体も増やしてきている。  風景は既に穴空きチーズのようになり始めており、もはや時間に猶予が無い事は見た目にも明らかだ。  触れるだけで由加のようになってしまうのならば、歩く事にすら細心の注意を払わなくてはいけない位である。  しかも、白紙の栞をを糞天使達より先に見付けなくてはいけないときた。  一般的な栞より少しだけ大きい程度の、薄くて四角いただの紙切れ。  油断すれば、ただの紙屑と見間違えてしまいかねないそれを、広い俺の行動範囲全域を探して見付け出さなくてはいけないのだ。  白くて、薄い──  …………? 「も、もしかして俺、それを見た事あるかもしれねーぞ? 多分、あんたが全ての栞を使い切るその前、つまり皇樹の栞を使う前」 「えっ? そんなはずはありません。追加の栞は、貴方が不利であると司書さんが認めない限り、支給される事は無いのですよ? 貴方が主観的に追い詰められたと感じたのは、恐らくリピテルに騙されたと実感した時。それ以降、貴方が道端に落ちている紙切れに注目するような余裕があったとは思えませんが」
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