大樹の場合 4

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 獲物を穿つ針。  羽根をあしらった凶器。  全てを粉砕する、理解不能にして物理法則を完全に無視した超兵器。  そう、あの恐るべき装飾ダーツである。 「……どうだ?」 「一瞬ですが確認できました、間違い無いでしょう。貴方の頭の中、一度覗いてみたいものです」  待ってましたとばかりに、俺は赤髪に意見を求める。  相棒からは驚きと呆れを大いに含む、しかし決意と自信とほんの少しの不安を内包した力強い返事が返って来た。  それは、ゴーサインを意味する言葉。  俺の案が正しいと、実行に値する物だと、彼女はそう判断したのだ。  つまり危ない橋は、ここからという意味でもある。  行くも地獄、退くも地獄。  ならば、地獄巡りのついでに羽野郎に目にもの見せてやろうではないか。  どんどん冷めていくブレインと、どんどん熱していくハートがせめぎ合う。  ここから先は、冷静さが鍵となるだろう。  機械のように正確に見据え、機械のように精密に動く。  それが出来なければ生き残れない、とても危険な綱渡り。  しかし、マシーンと化して心まで凍らせてしまってはいけないのだ。  この先、不測の事態はいくつも起きるに違いない。  思考の柔軟性もまた、今の俺には不可欠だった。 「言い遺す事はあるかね?」  灰色の中より現れた羽矢を掌の上に浮かべたまま、悠然とこちらを見下ろす羽野郎。  身長差に加えて奴の高圧的な態度が、こちらの心に不要な波風をたてようとする。  それに対して、俺はつとめて冷静に、むしろ余裕の笑みさえ顔に張り付けて返事をした。 「世辞の句でも詠ませてくれるのかい? お優しい事で」 「なに、礼は要らぬ。お前もじきに我らが同胞となるのだ。この程度のサービスなど、どうという事はない」 「殺害し、“再生”した後でかい?」 「左様。殺害し、“再生”した後で」  奴が言うには、俺の頭は不要だという。  今なお奴を欺く手段ばかりを考えている俺の頭は、何らかの目的を持って行動しているであろう羽野郎達にとって、確かに邪魔以外の何物でもないだろう。
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