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俺の武器──それは言葉だ。
嘘吐きな自分自身だけが武器なのだ。
だから、俺は自由の利かない姿勢のまま、言葉の刃で武装する。
それを振り上げるタイミングを見誤らないよう、慎重に。
「まーね、あんたみたいな怪物に、く、比べりゃ、俺は非力だろーさ。けど、あんたはその口先に、最後まで……ぐっ、困らせ、られるんだぜ?」
「ほう、まだ無駄口を叩く余裕があるとは驚いた。どれ、最期に何か愉快な事を言ってみるが良い」
嗜虐的な笑みを浮かべ、羽野郎は俺の胸倉を掴む“左腕”の高さを少し上げる。
く、苦しい……
しかしそれは、自らの勝利を信じて疑わない者の余裕。
そして、逆転負けする悪役キャラクターの王道パターンでもあった。
確かに俺はしくじった。
決して自分は運動が特別得意な訳ではない事を自覚していたはずなのに、自分の身体能力を見誤ってしまった。
本気で奴が隙を見せるまで保つと、信じて疑わなかった。
正確に言うなら、考えた通りに動けない事なんて、ほんの欠片すら考えもしなかった。
その結果がこの様だ。
奴の“左手”に捕らわれ、俺は今まさに最期の時を迎えようとしている。
このままでは、赤髪が戻って来るまで耐える事なんて出来やしない。
時間が、足りない。
けれど、この期に及んで羽野郎は油断した。
さっさとやるべき事を済ませてしまえば良いのに、俺に対して余裕を見せた。
それが自らの首を絞める結果になるとも知らずに!
「……なあ」
もしかしたら空振りなのではないかという不安を振り払い、俺は文字通り決死の反撃を開始する。
切り札は、ピンチの時に出し惜しみしてはいけない。
なら、札を切るのはまさに今しかないのだ。
俺の最強のカード。
それが、この一言だった。
「あんた──て、“天使を見た事がある”かい?」
「…………なに?」
少しだけ、胸ぐらを掴む奴の“左手”が弛んだ気がした。
俺の足はまだ地に着かないままだ。
しかし、手応えあり。
畳み掛けるなら今しか無い。
そう判断した俺は、再び羽野郎を挑発するように唇の端を吊り上げてみせた。
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