大樹の場合 4

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「何を言い出すかと思えば……それは“再生天使”に向かって言う言葉とは思えぬな。気でも触れたかね?」 「抜かしてろ。俺には、手に取るように分かるぜ? あんたが内心、か、かなりビビってる、事がな。そうさ……げほっ、あんたは天使なんて、見た事が無い、はずだ。だって、あんたが元居た世界には、天使なんて、い……居なかったんだからなあ!」  最高に相手を馬鹿にした目で奴を見下ろす俺。  視線の先には、明らかに動揺を浮かべた羽野郎の間抜け面がよく見える。  赤髪は、羽野郎の故郷はワームと呼ばれる現象によって消滅した、そう言っていた。  そして奴の故郷がどんな世界だったかまでは知らない、とも。  それは、裏を返せば“奴の故郷がどんな世界か知っているのは、羽野郎本人だけ”と言う事だ。  嘘吐きリピテル。  奴は俺を騙して愉悦に浸った。  本来の目的とは別に、奴は明らかに状況を楽しもうとしている節がある。  恐らく性分なのだろう。  実際に俺は危うく命を差し出しそうになった訳で、これまでも奴の犠牲になった人間は決して少なくはないに違いない。  ……詐欺師、か。 「あんたが俺に吐いた嘘、“再生”の約束以外に、もう一つ、あるんだろ?」  俺の言葉に、羽野郎は何も答えない。  その顔には先程までの嫌らしい笑みは無く、青ざめた顔色が窺えた。  羽野郎とのゼロ距離を保っている今が、まさに畳み掛けるチャンスでもある。 「あんたは自分が天使だと偽った。俺と由加を助ける者だと、信じ込ませる、そ、その為だけにな。そうなんだろ……白い翼の“鳥人間”さんよ?」  亜人。  それは半獣半人のような生物が存在する世界だったのか。  それとも鳥の遺伝子か何かを植え付けられた実験体の類か。  はたまたもっと別の理由で発生した突然変異なのか。  俺の持つ知識や情報では、そんな詳しい所までは断定出来ない。  奴が本当に本物の天使だったならば、あるいは真偽に関わらず奴がシラを切り通したならば、俺のカマかけは空振りに終わっただろう。  けれど、奴に何らかの反応があるとは踏んでいた。  羽野郎──そう、“糞天使”ではなく“羽野郎”だ。
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