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「言い残す事はもう無いのかね? ならば、次の発言が貴様の残す遺言となろう!!」
「冗談! 言ったはずだぜ? 俺“達”の方が二十倍強えってなぁ!!」
「吠えたな!! それが誤りだと気付く間も無く逝くが良──」
……どっ。
トリ野郎の台詞を遮り、物凄い音がした。
あからさまな害意を感じずにはいられない、そんな音だった。
焦点の定まらない視線を揺らし、ぐらりと傾くトリ野郎が、俺の策が成った事を物語っている。
両腕は無事。
掌は感覚を失いかけているし、腕全体が痺れてしまっている。
けど、折れてはいないみたいだし、まだ動く。
ならばこれは、まさに俺がずっと耐え続ける事で得た、唯一にして最高のチャンスだ。
俺の左手が一閃し、即座に奴の下から抜け出す。
意識が飛んだトリ野郎は、そのまま無防備に地面へと倒れ込んだ。
我ながら見惚れてしまいそうなな早業だった。
「よう、待ちくたびれちまったぞ?」
「……しぶとい方ですね。本当に私が戻るまで保たせるなんて」
「あ、もしかして俺の事、信じてなかった?」
「信じていましたよ。でなければ、こんな無茶な作戦に賛成はしませんでした」
へえ、そいつは嬉しいねえ。
そう答え、俺はようやく安堵の笑みを浮かべた。
痺れた手の甲でべたついた額の汗を拭い、“彼女”に向き合う。
「そーかい。で、由加は?」
「貴方の指示した通りに走って、裏路地で振り切って来ましたよ……途中の地形や障害物全てが、彼女を攪乱する為に配置してあるんじゃないかと錯覚しそうなほど、巧妙な走行経路でした。貴方の頭の中がどうなっているのか、興味が尽きません」
「そりゃ言い過ぎだろ──滅多に人が通らない裏道だから、配置物の位置は昔と変わらない、それだけだよ。たまたま覚えていただけさ。でもまあ、あんたは良く“箸って”くれたよ。ありがとうな」
「……食事の時にしか役に立ちそうにないですね、お箸」
相変わらず、誤字に対する突っ込みは健在だった。
微妙なニュアンスの違いまで感じ取ってくれる彼女は、最高の相棒になってくれるかもしれない。
そんな訳で、赤髪の登場だった。
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