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奴に背を向け、並んで歩き出す俺と赤髪。
世界を食い散らかす灰色を、慎重に避けながら。
一歩、二歩、三歩──
「なあ。あんたにとって、嘘って何だったんだ?」
「…………」
奴に背を向けたまま、そしてゆっくりと歩を進めながら、俺はトリ野郎に問い掛ける。
唐突な話題の切り替えに、しかし奴は沈黙を保ったまま動かない。
でも、これだけは聞いておきたかった事だ。
俺の為にも。
由加の為にも。
「由加の嘘には、必ず理由があった。その殆どに、あいつなりの心遣いが込められていたんだ。それに引き換え、俺達の嘘はどうだ。相手を騙し、傷付け、優越感に酔いしれる。最低だよ」
トリ野郎は俺と由加を騙し、己が優位に愉悦を感じ、楽しんだ。
俺は仇討ちと自分の身を守る事を理由──いや、言い訳にして、トリ野郎を騙して鬱憤を晴らそうとした。
根本的には大差が無いと言えよう。
だからこそ、俺は余計にトリ野郎が憎くて仕方が無いのかもしれなかった。
奴はまだ膝を折ったまま動く気配がない。
俺と赤髪は、ゆっくりと歩き去る。
五歩、七歩、九歩──
「俺が迎えた結末は、最低最悪のバッドエンドだった。それは、本来有り得なかった結末だと思うんだ。でもそれは間違いで、因果応報、当然の報いなんだとしたら」
有り得ないどころか、必然の結末だったのかもしれなかった。
だからこそ、俺は自分自身が憎くて仕方が無いのかもしれなかった。
更に俺と赤髪は、歩いて行く。
十二歩、十五歩、十八歩──
「………ひ」
少しだけ、トリ野郎の声が漏れる。
堪え性の無い奴だなあと思いつつも、俺はまだ歩く。
二十二歩、二十六歩、三十歩──
「ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! 詰めを誤ったな、愚者よぉぉぉッ!!」
後ろを振り返ってみれば、勢いよく立ち上がったトリ野郎が、こちらを指さして笑い転げていた。
こちらまで楽しくなってきそうなほど愉快そうな表情だけれど、あえて怪訝そうな顔をしてみる俺。
考えている事がすぐに顔に出てしまう赤髪には、あえて喋りも振り向きもしないよう、予め指示してある。
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