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「油断だな! お前は何故不利と知りながらも、我に接近戦を挑んだのか忘れたかね? そうだ、我がB・B──ビーティングビスケットを恐れたからであろう?」
「ビー……なんだって?」
「衝撃増幅の魔弾(beating biscuit)。物体に接触した際の衝撃を数十万倍に増幅して撒き散らす、一時的かつ局所的に物理法則の根底へ干渉・改編を行う論理兵器だと聞いた事があります」
「……意味分かんねえ」
「たった十グラム重の荷重でも、数トン重に匹敵する破壊をもたらす事になる、という事ですよ」
「ポケットを叩けば増えるビスケットの童謡かよ……」
赤髪のフォローが入り、俺はB・Bの名前の由来に思い当たった。
爆発は起きても火は出ない破壊兵器のカラクリ。
今となってはどうでも良い話ではあったが、俺の理解が少しだけ追い付いたのを良い事に、トリ野郎は上機嫌で口上を垂れ流す。
「つまり! 我に背を向け距離を取る事、これ以上の愚策は──」
「ああ、無えな」
その距離、三十歩。
十メートル前後。
栞で身体能力を強化した赤髪でもない限り、一瞬で詰めるにはあまりに遠すぎる、そんな距離。
しかし、鳥目なトリ野郎も俺の姿をギリギリ視認出来るであろう、そんな距離だ。
勿論、あのB・Bにとっても十分に射程圏内である。
本来ならば俺が一方的に不利となる、絶望的な距離だった。
「そうだ! だが今頃気が付いても遅い! 貴様の敗因は無知と油断! 目先の事に囚われ大局を見誤ったな、愚者よ!!」
「それで?」
圧倒されない。
慌てない。
そんな俺を見て、流石に奴の表情にようやく陰りが現れた。
それはそうだろう。
あれほど俺が警戒していた、B・Bによる攻撃。
距離をおく程にこちらが不利になる恐るべき凶器。
その召喚を目前にして、今回の俺は全く動じていないのだから。
いや、過去二回も見た凶悪な破壊力の恐怖が刻まれた俺の体は、己の意思や理性に反して心の早鐘を打ち鳴らす。
それを悟られぬよう馬鹿にした薄笑いを浮かべる俺は、ただ単にあのトリ野郎に一矢報いる──その想いだけに突き動かされるばかりの、醜い復讐者に他ならなかった。
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