大樹の場合 4

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「油断だな! お前は何故不利と知りながらも、我に接近戦を挑んだのか忘れたかね? そうだ、我がB・B──ビーティングビスケットを恐れたからであろう?」 「ビー……なんだって?」 「衝撃増幅の魔弾(beating biscuit)。物体に接触した際の衝撃を数十万倍に増幅して撒き散らす、一時的かつ局所的に物理法則の根底へ干渉・改編を行う論理兵器だと聞いた事があります」 「……意味分かんねえ」 「たった十グラム重の荷重でも、数トン重に匹敵する破壊をもたらす事になる、という事ですよ」 「ポケットを叩けば増えるビスケットの童謡かよ……」  赤髪のフォローが入り、俺はB・Bの名前の由来に思い当たった。  爆発は起きても火は出ない破壊兵器のカラクリ。  今となってはどうでも良い話ではあったが、俺の理解が少しだけ追い付いたのを良い事に、トリ野郎は上機嫌で口上を垂れ流す。 「つまり! 我に背を向け距離を取る事、これ以上の愚策は──」 「ああ、無えな」  その距離、三十歩。  十メートル前後。  栞で身体能力を強化した赤髪でもない限り、一瞬で詰めるにはあまりに遠すぎる、そんな距離。  しかし、鳥目なトリ野郎も俺の姿をギリギリ視認出来るであろう、そんな距離だ。  勿論、あのB・Bにとっても十分に射程圏内である。  本来ならば俺が一方的に不利となる、絶望的な距離だった。 「そうだ! だが今頃気が付いても遅い! 貴様の敗因は無知と油断! 目先の事に囚われ大局を見誤ったな、愚者よ!!」 「それで?」  圧倒されない。  慌てない。  そんな俺を見て、流石に奴の表情にようやく陰りが現れた。  それはそうだろう。  あれほど俺が警戒していた、B・Bによる攻撃。  距離をおく程にこちらが不利になる恐るべき凶器。  その召喚を目前にして、今回の俺は全く動じていないのだから。  いや、過去二回も見た凶悪な破壊力の恐怖が刻まれた俺の体は、己の意思や理性に反して心の早鐘を打ち鳴らす。  それを悟られぬよう馬鹿にした薄笑いを浮かべる俺は、ただ単にあのトリ野郎に一矢報いる──その想いだけに突き動かされるばかりの、醜い復讐者に他ならなかった。
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