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「察しが悪いな、“わざと”あんたが得意な間合いを作ってやったんだ。御託は要らねー、かかって来いよ」
「…………」
笑みを浮かべたまま、ぎこちなく痙攣する奴の口元。
予めタネを教えてある赤髪の肩も震えていた。
笑いを堪えている様が見え見えで、そんな彼女の仕種が余計に勝利を確信していたトリ野郎を苛つかせる。
「い、いいだろう……命を惜しむつもりが無いのなら、遠慮なく我が刈り取ってくれる!」
「だから、やってみろって。ビビってんじゃねーよ、チキン野郎」
「ぐ……ぬ……」
俺の自信の正体。
そこにどんな策が潜んでいるのか予想し切れていないトリ野郎は、どうやら攻めあぐねているようだった。
しかしこのまま膠着状態が続く事は、俺にとって喜ばしい事ではない。
今も視界を埋める灰色は、ゆっくりではあるものの、未だ確実に拡大を続けているのである。
仕方ないな。
大サービスだ。
俺がきっかけをくれてやる。
じゃり、とわざとらしく音をたて、俺は一歩だけ前に出た。
トリ野郎へと“近付いた”。
距離にして、二十九歩。
それが、トリガーとなった。
「そこを動くなッ!!」
接近される事。
これはB・Bが再び封じられる事を意味し、赤髪が戻って来た今、奴にとっては状況が不利になるばかりである。
だから、今度こそトリ野郎は迷わない。
ここに来て、ようやく振り上げたままだった“右腕”が振り下ろされた。
それは空間を切り裂き、灰色の隙間から破壊の魔宝を呼ぶ。
間髪入れずに射出されたそれは、圧倒的かつ絶対的な暴力を以て裏路地の地面ごと俺の身体を爆砕する──
……はずだった。
来ない。
何も起こらない。
そもそも、奴の“右手”は空間を切り裂きすらしなかった。
ただ虚しく空を切っただけだった。
空振りだった。
トリ野郎自身、何が起こったのかも分からずに、間抜け面を晒したまま硬直している。
その隙を逃すまいと、俺は更にに追い討ちを掛けるのだった。
「三度ある事は四度あるとは限らない。覚えておくんだな、ボールは四つで出塁、ストライクは三つでアウトだ。四度目は無え」
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