大樹の場合 4

29/33
前へ
/135ページ
次へ
「ォおおおおおおおおおおおおおおっ!!」  狭く暗い裏路地に、トリ野郎の絶叫が響く。  それに呼応して、ネタも割れて駆け引きの必要が無くなった事を悟った赤髪が、ようやくこちらへ振り向いた。  そして俺は彼女に手渡す。  左手にしっかりと握りしめていた本命の品を。  トリ野郎が“右手”の袖に隠していたそれを。  銀文字の栞とすり替える形で奴から奪った“白紙の栞”を! 「白紙の栞は“本”の外へと繋がっています」  俺の言葉が途絶えたのを見計らって、赤髪の語りが始まる。  語り役をバトンタッチする事で、ようやく俺は肩の荷が降りた心地がした。  ナイスフォローだ。 「その繋がりを利用して、私達は様々な“本”へ出入りしており、またリピテルのような幻想適正の高い者は、“本”の外に用意した物を召喚する事も出来るそうなのです──あの、青の魔宝B・Bのように」 「……う……ぬ」  言葉も無く、トリ野郎の顔が陰る。  それはこちらの仮説が正しい事を如実に語っていた。  召喚プロセスの詳細やその原理なんて俺の知った事ではないし、詳しく聞いた所で俺の持つ常識──つまり物理的な解釈では理解出来るとは思えない。  けど、それならそれで構わない。  奴から白紙の栞を奪った事で、B・Bの召喚を封じた。  大事なのは、この一点だけなのだから。  そしてそれは、今まさに実証されたのだ。  俺に必要だったのは、経緯ではなく結果。  屁理屈なんて後付けで十分である。 「そこから大樹さんは推測したんです。空間を切り裂くのはリピテル、貴方の能力ではない。“本”の外へ繋がっている、白紙の栞の力ではないか、と」  俺の疲労を気遣ってか、赤髪のフォローはまだ続く。  俺の方は、ちょっと休憩だ。  トリ野郎に気付かれないように深呼吸して、全身の緊張をほぐしていった。 「今まで私は貴方がB・Bを召喚するのを、貴方との戦いの中で何度も目撃してきました。けど、その仕組みには気付けませんでした。分かってしまえば、召喚原理はとても単純。栞で“本”に隙間を作り、“本”の外に準備してあったB・Bを呼び込んでいた、それだけだったのですね」
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加