第2章『知略的悪魔』

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第2章『知略的悪魔』

1982年3月 秋山と別々になった俺は正直、煮詰まっていた。どの犯罪者の写真と見比べても、あのデビルと一致せず、ただ時間を無駄にしているようだった。 定期的に秋山と連絡を取っていたが、向こうもさっぱり収穫がない様子。髪の毛が黒いから日本人と決め付けるのは甘いすぎる考えなのかと自問自答にも飽きた。かといってゴッドもこれといって外人のように思うのもまた変な気持ちだ。 これからもこんな地味な作業が続くと思うと、秋山には申し訳ないが家に帰りたいし、イライラする。こんな俺を差し置いて時間だけはスムーズだった。 「大場さん、大変ですね。」 もう泣きたいくらい大変だ。後輩からこんな励ましも今では日常会話として署内に浸透している。 「大場さん知ってます?今朝の新聞で、静岡にある大学で吐き気や下痢で何十人かの生徒が病院へ運ばれたそうですよ。」 そういえばここ何日も新聞とか読んでなかったのかもしれない。後輩が言ってた大学の話はおそらく食中毒のたぐいだろう。まぁ、でも正直こんな話でもうれしかった。毎日デスクに張り付いて写真を眺めているより、外に出たい気持ちが強くなっていたから、とりあえず俺は静岡大学へ車を進めた。
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