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渚「ああ~…!何でよりによって仕事長引いちゃうのよ!」
お人よしの白石渚は、今日も部下の仕事を引き受けてしまった。
余裕だと思っていたが、ずる賢い部下は、内容の濃い仕事を押し付けてきた。
今更断るわけにもいかず、時間に間に合わせようとして、かなり疲れてしまった。
と、いうことだ。
待ち合わせ場所にはすでに優也が来ていた。
よく付き合いたてのカップルは、それで、かわいこぶろうと考えているんだろうが……
私は33歳独身……
無理、無理。
渚「ごめん!遅くなっちゃって…」
優「いや…俺も今来たから…」
嘘
もう30分も遅刻しているのに…
少し高い優也の顔を見上げる。
気付いているのか、いないのか……この男はよくわからない。
優「何かデートみたいっすね…」
目が合ったとたん、何を言い出すかと思いきや……
言った当本人は、口を腕でふさぎ、顔を背けている。
恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。
そうは言っても、自分も少し照れる。
渚「何言ってんの。冗談いって…」
優「はい…すいません…」
お互い少し見つめあったあと、緊張の糸がほどけたのか笑いあった。
優「あっ、そういえば…何て呼べばいいですか?」
渚「え………?
渚(何って…)
………名字でしょ」
その言葉になぜか、彼はすねた。
優「名字しらない」
渚「しら……」
優「渚さん」
渚「………え?」
優「『さん』付けなら、いいですよね?」
強引……
無邪気に笑う優也に、渚は言い返すことができなかった。
渚「……ちゃんと『さん』つけなさいよ…」
優「はい。じゃあ、渚さん…。俺の事は優也でいいですから」
渚「分かった。」
絶対呼ばない。
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