ぐうたら高校生

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ポカポカと、明るく柔らかな春の陽射し。 今ごろあの古びた体育館では、春の式典の代名詞・入学式が行われているはずだ。 そのせいか、同じく古びたこの校舎に人影はない。 ―――いや、あった。 桜が春風に揺られて舞い上がる中、屋上にある貯水タンクの上に誰かが寝そべっていた。 まるで陶器のように白い肌に、若干襟足の長い漆黒の髪。 閉じられたその瞼で、瞳を窺うことはできない。 この学校の制服である学ランを身に(まと)い、財布と携帯しか入っていないサブバックを枕にして眠っている。 何とも穏やかな、春の一日――― 「おぉ~い、シズ。 いるかぁ~?」 そんな平穏な時間をぶち壊す人間が、錆びてたてつけの悪くなっている屋上の扉を開ける。 そして迷うことなく貯水タンクに上ると、まるで獲物を見つけたみたいに口角を上げた。 「まぁた寝てやがる、こいつ……」 .
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