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―――のはずだった。
しかし一面赤になることはなく、自分の手にも何かを刺した感触はない。
その代わりと言ってはなんだが、自分の手首に何かが巻き付いている。
確認するように自分の右手を見てみると、その手首を白い手に掴まれていた。
「やぁ、シズ。
ようやくお目覚めかい。」
「―――最悪な目覚めだよ、愁。」
ニコニコと笑う茶髪少年―――愁に向かって、漆黒の瞳で睨みつける。
「やだなぁ、雫君。
せっかく心優しいこの僕が、わざわざ起こしてあげたのに。」
「そのわりには、物騒だな……」
ナイフを振りかざす人間が言うことか―――?
かなり問題なような気もするが、愁に言ったってしかたがない。
暖簾に腕押し、糠に釘。
いくらやっても手応えがない、つまり無意味だということだ。
「まぁいいじゃん。
シズなら絶対当たることはないんだから。」
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