第1章 花嫁の訪問

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封印しようと秘められし魔力を高め解放した。トゥースの魔術の腕も魔力も並みの魔術師よりは高いと自負していたのだが、女は余裕綽々な様子でトゥースを見る。 「あら、見かけによらず魔術が使えるの? 少しは楽しめそうね」 両手を広げ、宙へ浮き上がり始める。それだけで、人と精霊の実力差がはっきりする。女の周りの景色が歪み、見ている者に恐怖を与える嫌な気配、人とは違う圧倒的な存在感が段々強くなっていく。女神と名乗るだけはあった。 勝ち目はないと思いながらも剣を構え続ける。戦う意志をなくし、背を向ければ死が待っている。二人の立場は捕食者の女と被捕食者のトゥースに別れた。 「ルキオラ、止めて!」 死と言う緊張した世界に割って入る、緊張を含む若い女の叫びが響き渡る。 「フロア!?」 トゥースは予想もしていなかった展開に驚いて視線をそらした瞬間隙が出来た。目の前の捕食者はそれを見逃さない。 しまったとすら言う暇がないトゥースは何とか体を捻ってかわそうとする。視界が変わり、駆け寄る途中のフロアが何かをしたように見えた。 「えい!」 女の体に蔦が恐ろしい勢いで伸び、巻きつこうとしたが女は間一髪でかわす。 「邪魔しないで欲しいわ。フロア」 剣もオニキスも届かない位置まで浮き上がった女がフロアを睨みつける。 「ルキオラ、あなた何をしようとしたの?」 フロアも負けじと女を睨みつける。女はトゥースとフロアを見比べて面倒臭そうな表情を浮かべて素っ気なく言う。 「別に」 そのまま女は身を翻して消えた。姿がどこにもないことを確認したトゥースは力が抜けて座り込む。 「トゥース様。大丈夫ですか」 フロアは慌てて駆け寄りトゥースの怪我の具合を確かめようとあちこち手で触れる。 「フロア! 下がって!」 生き残ったコドラゴンが二人と一頭を囲んでいた。フロアを後ろへ庇いオニキスの間に隠すと素早く立て直し、残りのコドラゴンを片付けにかかる。 ††† 今日の仕事を全て終えると何でも屋オニキスに戻った。 「疲れた」 トゥースは汚れ綻びだ服を着たまま身体を投げ出すように机に突っ伏す。 今日一日を思い返すと、引っ越しの重労働中に男二人でも無理な物をフロアが蔦で楽々持ち上げる。ハーピー退治に訪れると、ある男の楽器から出される騒音に怒り狂ったことが分かり和解するため、頭に血が上ったハーピーをフロアは蔦で絡めとる。
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