いつもの日常

2/2
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
ブブブ… 携帯のバイブが鳴る。定時だ。迎えに行かなきゃ。 私は開いていたメールを閉じると、そのままパソコンの電源を落とす。 「それじゃ、お先です」 そう言って、引き出しから鞄を取り出すと、私は慌てて席を立つ。 「綺椰(あや)、なんか慌ててるねー。もしかして、デート?」 そんな私を見て、ニヤニヤしながら、隣の同僚が聞いてくる。 …わかってて聞いてるな、こいつめ。 「も~、昼に話したでしょ?姉さんの子どもを幼稚園に迎えに行くの。私にデートをする相手がいるかどうか、慧子(けいこ)が1番良く知ってるでしょう?」 大学時代からの友人で、運良く会社の同僚でもある慧子にそう言うと、横目で少し睨んでみる。 「ごめんごめん、冗談だって。佳椰(かや)さんのお使いだっけ。気を付けてね。また明日!」 「ええ、また明日」 慧子とのやりとりを終え、急いで駐車場へと向う。初めて迎えに行くから、道、間違えないようにしないと…。 自分の方向音痴さに不安を抱きつつ、私は車に乗り込んだ。 幼稚園までは確かここから車で10分程度のはず。友姫(ゆき)ちゃん、いいこで待っててくれてるかな? 姉の子どもの友姫ちゃんに会うのは久しぶりだ。もう、忘れられてるかもしれない。 そんな事を思いながら交差点を右に曲がる。 すると、そこには咲き始めの桜並木が広がっていた。 「こんな所に桜並木なんてあったんだ…」 思わず呟く。二車線の、暫くは続きそうな一本道。その両脇に、道に添って桜が整然と立ち並んでいる。 この道を通るのは今日が始めてで、こんな場所があることに今まで気が付かなかった。まだ三部咲き位だろうか。全てが咲き誇ると、さぞかし壮観なことだろう。 けれど、今の私には少し、複雑な心境でもある。 私はまだ、桜を心から楽しむ事が出来無いでいた。あの季節(とき)から、私の時間(とき)は停まったままでいる。 満開に咲き誇る桜を目にした時、今年は心から美しいと思う事が出来るだろうか…。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!