三夜 濡れる満月

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 ベアトリーチェはふと<魔女>すら足蹴にする力を持った人間の子供に不安を覚えた。  彼が子供の時分は全く灰被りには頭が上がらなかったものである。  「君はどうしてこんな屋敷にいるんだ?」  灰被りが口を開く寸前にドゥランテが答えた。  少年はまま女性の発言を遮る。  「僕はみなしごだったんだ。孤児院にいて、そこからあるおじいさんとおばあさんの家にお世話になったんだけど、二人が死んでしまって僕はまた天涯孤独になってしまった」  そうだろ灰被り、と少年は<魔女>に確認する。  灰被りは一寸間を開けて浅く頷いた。  明らかに不審である。  ベアトリーチェが訝し気に彼女を見ると、目だけで少年を指された。  少年は続ける。  「僕は途方にくれた。生きていく当てなんてなかったからさ。ただふらふら街から街をさまってた。盗みを働いたりしてね」  少し淋しそうに陰った瞳がベアトリーチェを搦め捕る。  なんだか出来すぎた悲しみが見えた。  「気付いたら僕は死にかけていて……そして拾われたんだ」  「助かったのか」  「だから僕はここにいるのさ。王サマが僕を拾ってくれたんだ」  少年が誇るように笑った。  ベアトリーチェはぽかんとドゥランテを見た。  灰被りが、ベア、と彼を呼んだ。
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