6人が本棚に入れています
本棚に追加
彼は骸骨である。
彼は心を知らない。宗教を持たない。考えることをしない。
彼は山奥に住んでいる。 細々と、一人で居る。
春、彼はしゃがみ、腰を曲げて土筆(つくし)を取り、口へ運んだ。
夏、彼は更にしゃがみ、手を伸ばしてメダカを追い、口へ運んだ。
秋、彼はグンと背伸びをし、バッと強く栗をもぎ、口へ運んだ。
冬は寝て過ごした。霜に全身の骨を覆われる。
ある夏の夜、彼は就寝時、両の眼窩を猪に踏まれた。
その日から彼は、色覚に障害を持った。
気付いたのは、翌朝である。川へ向かうと、メダカが宙で泳いでいるのだ。
彼は、川が見えなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!