骸骨の瞼 一

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   彼は骸骨である。  彼は心を知らない。宗教を持たない。考えることをしない。  彼は山奥に住んでいる。 細々と、一人で居る。  春、彼はしゃがみ、腰を曲げて土筆(つくし)を取り、口へ運んだ。  夏、彼は更にしゃがみ、手を伸ばしてメダカを追い、口へ運んだ。  秋、彼はグンと背伸びをし、バッと強く栗をもぎ、口へ運んだ。  冬は寝て過ごした。霜に全身の骨を覆われる。    ある夏の夜、彼は就寝時、両の眼窩を猪に踏まれた。  その日から彼は、色覚に障害を持った。  気付いたのは、翌朝である。川へ向かうと、メダカが宙で泳いでいるのだ。  彼は、川が見えなくなった。
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