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少女は耳が聞こえなかった。鼻が利かなかった。その代わり目が良かった。
少女は闇を知らない。黒色を見たことがない。光に愛されていた。
見えない色など、何もなかった。
ある秋の夜、少女はいつものように、病院のベッドに座っていた。
大雨だ。珍しい。ここのところ秋晴れが続いていたのに。
少女は泣いていた。静かに涙を零していた。くすんくすんと鼻をすする。声には出さない。
静かに泣いていた。
少女は知っていた。自分の病気が治ることを知っていた。その後に苦しむことも知っていた。今後の人生、ろくなことが起きない。
少女は静かに噎せた。
ふと、少女のもとへ音が届いた。しかし、少女は気付かない。
耳が悪いせいで、その歌声は聞こえなかった。
少女は、涙したまま眠りについた。胸が、苦しい。
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