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暗い
埃っぽくて
ジメジメしてる
男は私を冷たく見つめる
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私は数時間前、この、目の前にいる男に掠われた。
家という何もない空間から、学校という息苦しい空間へ、移動をしていた。
穏やかな太陽、冷たい風。
人通りの少ないこの道は、ひどく静かで、鳥の囀りさえもうるさかった。
そこに黒いボロボロの車が現れて、中から男が走り寄る。
一瞬の出来事だった。
男は私の腕を強く掴んで引っ張った。するとひどく驚いたようで私に尋ねた。
「お前、抵抗しないのか?」
私は答えた。
「抵抗する意味がないもの。」
私は車に連れ込まれ、目を布で覆われた。抵抗しないと言ったおかげか、口は塞がれずに済んだ。
車を止め、何か建物のような所に入るとすぐに、目を覆っていた布も取られた。
ここは多分倉庫だろう。コンクリートに囲まれた、箱のような形をしている。小さい窓がいくつかあって、そこからは光が刺しこんでいる。
「私を連れて来ても、お金なんか手に入らないわよ。」
男は私を床に座らせて、角にひとつある机で何やらごそごそしている。
「お前、名前は?」
男は背を向けたまま話す。
他人の話は聞かないのか。
「知らない。」
ゆっくりと振り向く。
男の姿は、髪はボサボサで、手入れなんかしていないようで、中途半端に伸びていた。服も汚れていたり伸びていたりでボロボロだった。
かけている眼鏡を外して、格好を整えれば、それほど老けてはいないようだ。
「じゃあ…お前の名前は今日から『クラ』だ。」
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