太陽の願い

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彼女は僕の手を引いて、焼け焦げた街の残骸の中を歩き続けた。 人間だったらしい炭の塊、焼け爛れ、今にも落ちそうな皮膚をぶら下げた人々、人なのかの区別さえつかないモノ……。 僕は今更になってこの悲惨さを目の当たりにした。 「坊や、よぉく目に焼き付けておくのよ。 よぉく鼻に臭いを染み付けておくのよ。 ……これが人間の過ち、そして、私の過ち……」 彼女は哀しげに、小さくそう呟いた。 それから彼女は、僕を安全な場所まで導いてくれた。 その上、不思議な力で僕の火傷を治し、食べ物まで持ってきてくれた。 彼女は、神様のようだった。 そして、八月十五日、天皇陛下が終戦を宣言なさった。 長い長い戦争は、多大な犠牲を払って、終わった―― 終戦の放送を聴いたらしい彼女は、僕を街の近くまで導いてくれた。 そして、街の手前で、彼女はこう言った。 「坊や……、人間は何度も過ちを犯すわ。 沢山の命、沢山の文化、沢山の自然を犠牲にしてね。 私は、こんな事をさせる為に貴方達を産み出したんじゃないの。 だから、この悲惨さを、この過ちを、後の世に伝えてあげて。 そうしたら、きっと、私が願った理想郷が、坊やの願った平和が見れるはずだから……」 この時、僕は気付いた。 彼女は……、この世界の創造主、神様だってことに。 「ごきげんよう、坊や。 これからの未来が、どうか、優しいものになりますように……」
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