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――あの日、アイツに会わなけりゃ俺の運命は、日常は、変わらずにいれたのに――
それは今から十年前の春の出来事。
当時十歳の子供だった俺は、桜並木を見る為に近所の河川へ一人で散歩に行った。
……別に友達がいない訳じゃない。
ただ一人でゆっくりと眺めていたかったから、誰も誘わなかったのだ。
桜並木に沿って川を上って行くと、大きな桜の木がある公園に辿り着いた。
俺はその木の前に立ち、空を仰ぎ見ると、薄桃色に染まった枝から、僅かに日光が零れていた。
「小僧……、其処の小僧」
突然、後ろから女性の声に呼ばれ、俺は振り返る。
そこにいたのは、透き通る位真っ白な髪と肌の女性だった。
……実際、その人は透けていたのだが。
「アンタ……誰?」
「妾は此処に眠る者。桜に込められた魔力によって、自由を奪われた者じゃ」
白い女性の言葉遣いと鮮やかな朱色の着物を見る限り、江戸時代かそこらで死んだ幽霊っぽい。
昔っから霊を見る事が出来た俺は、冷静にそんな事を考えた。
「小僧。お前には妾を自由にする力が眠っている。だが今は未だ覚醒していないようじゃ。」
「へー……」
「お前が成人した時、其の力は覚醒するじゃろう。……そこでだ。お前が成人したら、妾を自由にしてくれはくれぬか? 妾はもう、このような場所には居とうないのじゃ……」
どこか寂しそうな表情に一瞬惹かれ、俺は安易に契りを交わしてしまった。
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