その壱

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夜の帳が下り梟が鳴く時刻、男達は花嫁衣装を着せた娘を輿に乗せ担ぐと山を登り、山奥にある古びた社を目指していた。 ―姉さん達今頃逃げてる最中かしら― 少女は瞳を閉じ昼間の出来事を思い出していた。 姉は部屋の一室でシクシクと泣いている。 「…姉さん。」 妹の声を聞くと泣き止み 「何故私が生け贄にならなければいけないの。」 ボソリと呟き姉の瞳から涙が零れ落ちる 「鬼の花嫁でなければ、私はあの人と婚儀を迎え所帯をもっていたのに…。」 姉は床にひれ伏し又泣き始めた。 そう姉には恋人がいる。 その人は村長の息子で行き倒れていた私達を自分の家まで運んでくれ、元気になるまで世話をしてくれた。 それだけでも有り難いのに、更に身寄りの無い私達に住む家を与えてくれ色々と世話してくれた。 そして半年前に姉と恋仲になり村長を説得して結婚すると姉と村長の息子は幸せそうに言っていた。 だが今夜姉は恐ろしい鬼の花嫁として嫁ぎ、山奥に捨てられるのだ。 妹は姉の姿を見るのが悲しくて顔を俯く。 その時、姉は妹を顔を見て何かを思いついたのか恐ろしい言葉を口にした。 「そうだわ!! 貴女が私の代わりに花嫁になってくれないかしら。 」 「えっ!? 」 姉の身勝手な思いつきに妹は驚きビクリと体を震わせる 「そうよ。 貴女はまだ成人してない。 鬼の元へ嫁いでも花嫁の資格が無いから村へ帰ってこれる。 その間私達はこの村から出ていけばいい。」
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