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青海さんがショーケースの方から歩いてくる。
彼女への視線を背け、俺はすぐにカウンターに身体を向け直す。
「お待たせいたしまし………」
体も、目も青海さんに向けている。
だけど全ての感覚が彼女に向いていた俺の耳に、青海さんの言葉は入ってはこなかった。
結局、カウンターに戻した俺の視線は首振り扇風機のように何度も彼女に向けられるのだった。
_______________
……ギィー……チリンチリン……
月明かりの差しこむ店内に呼び鈴の音が響く。
「おう!! 元気でやっとるかぁ!?」
まばらに埋まる店内に、しゃがれた陽気な声が響き渡る。
恰幅の良いその男は、ドスドスと歩きながら青海の前に席を陣取った。
「いらっしゃいませ。ソウさん、いつもありがとうございます」
「おう! ありがたく思えよ!」
ソウさんと呼ばれる男はそう言って、ガハハ笑うと「いつもの!」とビールを注文した。
青海は冷蔵庫からジョッキを取り出し、ビールサーバーに斜めにあてる。
手慣れた手つきでレバーを動かしながら、ビール7:泡3の綺麗なビールを完成させた。
「……ぷはぁぁ! やっぱり、汗かいた後はビールだわなぁ!」ソウさんは、白い泡ヒゲを作りながら満面の笑みを浮かべる。
青海さんが軽く会釈すると、ソウさんはせきを切ったようにしゃべり始めた。
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