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「…でよぉ! 馬鹿息子がな……」
仕事の話、息子の話。ソウさんは愚痴でも自慢でもない話を笑顔で語る。
そのくだらないがホッとできる話は、祖父のうんちくを聞く時のようで、青海を自然と笑顔にさせる。
ソウさんの話を笑顔で聞き続ける青海。
ソウさんはあらかたしゃべり終えると、その笑顔をにやけた顔で見つめた。
「んん~? 青さん、今日はなんか機嫌良いじゃねぇか!
……ははぁ~ん、さてはこれか!?」
口角を吊り上げ、目を細める下品な笑みを浮かべながら、小指だけをあげた。
「ははは、違いますよ」
苦笑いを浮かべ、青海は目の前で手を振る。
「外しちまったかぁ!
ただ、今日はやけに上機嫌な感じがしたからよ!」
がははと笑い、ソウさんは残りのビールを飲み干した。
「ふふ。確かに機嫌が良いかもしれません」
そう言って、青海は端にあるカウンター席を見つめる。
ソウさんは空のジョッキをカウンターに置くと、青海を不思議そうに眺めていた。
「なんかあったのかい?」
ソウさんの声を耳にして、青海はふふっと含み笑う。
「……えぇ、春が来たんですよ。春が…」
何も理解出来ず、ソウさんはポカンとする。
ただ、優しく笑う青海を見ているとそんなことどうでも良くなり、しゃがれた声でガハハと笑った。
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