<チョコレート>

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俺は左腕を支えに頭を固定して、コータとケイをぼーっと見つめる。 漫画を凝視するコータに、間抜けてるケイ。 いつもののんびりした光景。 ……そう、全ていつも通りのはず。 「……で、まだ好きなんだろ?」 コータはそう言うと、一瞬だけこちらを見て視線を漫画に戻した。 「……そりゃね」 「毎回そんな感じだな。 別れるの何回目だよ?」 「三回……いや、四回目かな?」 「よく飽きないな。 どうせ今回も元さやだろ?」 俺は目をつぶって、首をかしげ「さぁ?」とだけ返した。 メグミとは何回も別れて、戻ってを繰り返している。 今までの三回は全部、俺から振っていた。 でも、今回は初めてメグミから。 そう、今回は俺が振られたんだ。 俺の「さぁ?」が聞こえたのか聞こえていないのか、コータは漫画に首ったけ。 コータは多分俺の気持ちをわかってる。 だから返さない。 『今回も元さや』 俺はコータの言ったとおりの事を思っていた。 三年も付き合って、何回も別れて、その度によりを戻して。 だから今回も元に戻る。 心のどこかで、そんな風に軽く考えていたのかもしれない。 『次に私を振ったら、もう知らないからね!?』 別れる間際に、メグミがよく口にしていた言葉。 酔っぱらうと絶対に口にしていた言葉だ。 俺が振られたから関係ないんだけど。 ただ、この言葉が何度も脳裏に蘇った。 部屋の中には、電車のダイヤのように正確なリズムでいびきが響く。 ……ンガガ……グゥー……ンガガ……グゥー…… 不快なはずなのに、何故かこの音を聞いていたら俺まで眠気に襲われる。 コータもいつの間にか、漫画を開いたままでお腹に置き、目をつぶっていた。 ……もう寝るしかないじゃん。 俺はチョコを取ってから、電気を消した。 「寝酒」ならぬ、「寝チョコ」だ。 あぁ、やっぱり苦い。 暗闇の中を、いびきとチョコを食べる音だけが響く。 ……ンガガ…パキ…グゥー………パキ……
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