猿の手

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結局、私も探偵も無言のまま事務所の前まで戻ってきた。探偵は事務所のドアに手を伸ばすと私に背を向けたまま、 「由美君、今日はこのままあがっていいよ。お疲れ様。」 そう告げると一人だけ事務所へと帰っていった。 ガチャリー、事務所のドアが開いたのは、陽が沈んでおよそ二時間程過ぎた頃だった。 「ボス…。」 探偵は少し意外そうな顔をし 「由美君、どうしたんだい?そんなとこに座りこんで。」 と尋ねた。私は、よいしょっと言って勢いよく立ち上がり、満面の笑みで探偵に言った。 「ボス、月末近いんで金欠やから何か晩御飯奢ってくださいよ。」 探偵は少し面食らったような顔をしたが、少し笑って言った。 「ウチも財政難だからね、大したモノは奢れないよ。ラーメンでいいかい?」 「奮発して、おつまみチャーシューとビールもつけてくれません?」
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