いつか誰かを愛した時 前編

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それにしても良く寝ている。 相当疲れていたのだろう。 いつもならこんな時でも自分を呼ぶ声は途切れないというのにさっぱり聞こえてこない。 こうして目の前にいるにも変わらずだ。 こんなに近い距離で聞こえないはずもないのに。 ましてや手まで握っているというのに。 やはりさらわれた間に何かあったのだと考えるのが妥当だろう。 三蔵は再びため息をついて八戒が持ってきた水桶とタオルを見るとタオルを水につけて軽く絞り悟空の額に乗せた。 金錮を挟むために冷たさは届きにくいだろうがしないよりはましだ。 口の隙間から洩れる熱い吐息は相変わらずだがきっとこれもすぐ良くなるだろう。 ぼんやりとそう思いながら握られたままの手から温かい温もりが伝わってくるのを感じていた。   
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