キスしてほしかったのに、

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誰もいなくなった廊下の隅っこで、壁に背中を預けてへたり込む。 どれくらい走っただろう… 心臓の音がこれでもかってくらいに激しくて息も苦しくて、でもそれは走ってきたせいだけじゃないみたいで。 やばい、やばい…どうしよう。 気付いてしまった。 分かってしまった。 …龍樹が、好き。 信じたくないけど、どうしようもないくらい好きみたい。 分かってしまったから、今も激しく脈打っている心臓が余計にズキズキと痛む。 やっと気付けたのに、叶わないと知ってしまった。 「なに逃げてんの?」 顔を上げると、少し先に龍樹が立っていた。 短く小さなため息を吐いて、こちらにゆっくりと近づいてくる。 静かな廊下に足音だけが響く。 足音が近付くほど金縛りにあったように動けなくて、どうしよう、と気持ちだけが焦っていた。 龍樹はへたっているわたしの前まで来ると、同じようにしゃがみ込んでわたしと視線を合わせる。 「お前足早すぎ」 「…だって」 「髪、ぼさぼさやし」 龍樹の大きな手が髪に触れる。 いちいち反応して熱くなる体。 不意にさっき見てしまった光景がフラッシュバックした。 .
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