“笑顔”

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「今日も甘い、か」 二人きりだと信じていた アダムとイブの楽園に 突如割り込んできたその声は、 爽やかな毒気を含んだ 聞き慣れた いつもの響きだった。 男は 見上げた貯水タンクから、 すらりと伸びた右足を 軽く簡易梯に引っ掛けると、 翼でもあるかの様に ふわりとナオの眼前に現れた。 「いつからですか!?」 とりあえず、 それだけは知りたかった。 「うん。とりあえず 朝食を食った辺りから 記憶は無いかな」 「マジかよ…」 落胆するナオ。 「ピヨピヨ」 ヒロが口をすぼめている。 「ピヨピヨ?」 意味がわからず ナオは視線で問い掛ける。 「クチバシが黄色いからさ」 驚いた拍子に 噴き出した玉子焼きを、 ナオはだらしなく 口元に拡げていたのだ。 「ピヨピヨ」とヒロ。 「ピヨピヨ」 仕方なくナオも呟いた。 この上なくヒロは微笑んだ。 「僕のカワイイ、ヒヨコちゃん」  
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