プロローグ

2/2
69人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
 世界に深紅の薔薇が咲き乱れる――そんな錯覚に僕は陥った。  全身に広がる痛みは少しずつ僕の命を奪っていく。  僕は……僕は死ぬのだろうか?  “彼女”の涙と思われるものが頬に流れる。大切な“彼女”をトラックから守ったが故に、僕は命を失おうとしている。  くだらない、だけど妙に人々の感動を誘う恋愛小説のオチ。それにそっくりだ。僕が大嫌いなソレ。だけど、いつの間にか僕もその道をいっていた。大切な“彼女”のために、命を投げだしたのだ。 「ごめ、ん」  重い瞼を半分持ち上げると、淡い光で僕の世界が広がる。そして、あるのは“彼女”の顔。泣いてない。僕が涙だと思っていたのは、天から降り注ぐ雨。  そういえば、降っていたなと思い出す。  僕の大好きな雨。 「――ごめんじゃないよ馬鹿! 喋らないで!」  僕は淡く笑った。それしかできなかった。“彼女”の瞳に涙が滲む。  何か言おうとしたら、突然、睡魔が僕の耳元で甘く甘く囁いた。その上では“彼女”が必死に僕を止めている。  だけど、だけどごめん。 「ごめん……僕」  ――少しだけ、少しだけ眠るね。  僕は深い眠りについた。もう二度と目覚める事はない永久の眠りに――。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!