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世界に深紅の薔薇が咲き乱れる――そんな錯覚に僕は陥った。
全身に広がる痛みは少しずつ僕の命を奪っていく。
僕は……僕は死ぬのだろうか?
“彼女”の涙と思われるものが頬に流れる。大切な“彼女”をトラックから守ったが故に、僕は命を失おうとしている。
くだらない、だけど妙に人々の感動を誘う恋愛小説のオチ。それにそっくりだ。僕が大嫌いなソレ。だけど、いつの間にか僕もその道をいっていた。大切な“彼女”のために、命を投げだしたのだ。
「ごめ、ん」
重い瞼を半分持ち上げると、淡い光で僕の世界が広がる。そして、あるのは“彼女”の顔。泣いてない。僕が涙だと思っていたのは、天から降り注ぐ雨。
そういえば、降っていたなと思い出す。
僕の大好きな雨。
「――ごめんじゃないよ馬鹿! 喋らないで!」
僕は淡く笑った。それしかできなかった。“彼女”の瞳に涙が滲む。
何か言おうとしたら、突然、睡魔が僕の耳元で甘く甘く囁いた。その上では“彼女”が必死に僕を止めている。
だけど、だけどごめん。
「ごめん……僕」
――少しだけ、少しだけ眠るね。
僕は深い眠りについた。もう二度と目覚める事はない永久の眠りに――。
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