一 静止する日常

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 成績は上の中。友達もまぁまぁいて、好きな人もいる。この間やった三者面談でも先生に順風満帆だと言われた。  でもみんな知らないだけ。アタシにだって悩みくらい山ほどある。  結衣は今までのことを考えながら、ふっと足を止めた。 「…そうよ…みんな何も知らないくせに……」  「神崎結衣様」 「!!!!!」 突然フルネームで呼ばれ、結衣は心臓が止まりそうになった。  慌てて振り返ると、そこにはサングラスに黒のスーツ…さしている傘まで黒い。 (…あ…怪しすぎるっ…!!!!)  そもそも何でアタシはこの人に呼び止められたの?何でこの人は私の名前を知っているの? 「…えっと…」 疑問のすべてをぶつけようかと思ったのだが 「神崎結衣様、ですね?」 「は、はい…」 男の質問に遮られてしまった。  「…あなたの…思い通りの世界を差し上げましょう。」 「…はい?」 この人頭おかしいのかも…ここは適当に切り上げて逃げた方が懸命ね!! 「あ、アタシそんな…」  だが男は結衣の言葉を待たずに、懐からペンライトを取り出した。 「一週間。」 「え?」 「一週間後の夜9時、一度迎えにゆきます。それまでに、『あちらの世界』に永住するかどうかをお決め下さい」  次の瞬間、男のペンライトの光を直に見た結衣は、だんだん意識が遠退いていった――…
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