一 静止する日常

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 母が結衣の部屋に来ることなど滅多にない、しかもこんな結衣の機嫌を伺うような顔付きでいることはさらに珍しかった。  「…何?」 母が来る時といえば結衣のテストの点数が悪かったりとかした時くらいだが、最近テストはなかった。ましてやこんな表情で来るわけもない。  母が、結衣に見せた薄いすべすべの紙。それを見て、結衣はすべての謎が解けた気がした。 「…離婚…するんだ…」 結衣の目線が冷たいものに変わったことには気付いていないのだろう、母はうっすら笑った。 「…そのつもり…だったんだけどね…」 「……?」  歯切れの悪い返事に、結衣はようやくベッドから身を起こした。 「…やめたの。」 「…へぇ…」  意外、だった。結衣が幼いころから喧嘩ばかりして、ことあるごとに『結婚しなきゃよかった』『別れたい』を繰り返していた両親の決断としては、あまりに意外だった。
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