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哲雄は無口だけれど不器用なだけで、本当は誠実で優しい。
善弥は奇妙な行動が目立つし気性にも波があるが、ムードメーカーのような一面もあるし、睦と二人で騒がしいことも多いが、見ていて嫌じゃない。
蓉司はこの奇妙な平穏が――日常が好きだった。
睦や哲雄、そして時々善弥と一緒に放課後を過ごす。
蓉司が体調不良で学校を休んだ時には、睦や哲雄がプリントを持って見舞いに来てくれることもあるし、学内でも成績がトップクラスの哲雄は蓉司の家庭教師のようなものだった。彼の家に招かれて、夕食まで御馳走になったことさえある。
かけがえのない友人たち、というのだろうか。
姉にはメールで話しすぎたせいで、会ったこともないというのにすっかり名前を覚えられた三人。
幸せだと、ふいに思った。
「…崎山?」
声をかけられて我に返る。知らない間に下足箱まで来ていた。
「ああ、悪い。考え事……してた」
「よーちん、ぼんやりしすぎー」
電柱にぶつかっちゃうよ、と善弥が笑う。それに苦笑いで「そこまで鈍くない」と返しながら靴をはきかえ、校外に出る。
どこかのスピーカーから『夕焼け小焼け』が響いている。
夕日の最後の一滴のような、凝縮された緋色が西の空に沈んでいった。
三人分の影がアスファルトに伸びる。
細長く黒い影。
いつもの、ハンバーガー店に向かう道。何の変哲もない景色が歩く速度で流れていき、忙しなく会話を求める善弥と、朴訥とした哲雄の応答が両耳に心地よい。
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