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ハンバーガー店が見えてくる。
睦は窓辺の席にいて、遠目にではあったけれど、彼の前にはいくつものハンバーガーの包み紙が積まれているのが見て取れた。
「すごい数だな」
哲雄が呟く。善弥は小さく笑い、そしてぶんぶんと両腕を振りまわした。
「まこっちゃ~ん!」
「ちょ、翁長ッ」
恥ずかしいだろ、と腕をつかむ。
「えー、気にしない気にしない」
気にしろ、と低く呻く。
見てみると、哲雄の唇がほんの少しだけ緩んでいた。
視線をハンバーガー店の睦に向けると、一瞬の空白の後で目が合い、睦が苦笑いで小さく手を振り返す。「がんばれ」と唇が大きく動いて蓉司にエールを送った。
手を振り返した睦に勢いづいた善弥が強引に蓉司の腕を引き、走り出す。足が縺れて、転ばないように必死に善弥を追った。
哲雄を振り返る。
小さくため息をついて肩を竦め、そして蓉司を見つめる視線。
優しい、穏やかなまなざし。唇に刻まれた薄い微笑。
きっと。
これを幸せと呼ぶのだろう。
夕日が沈む。
最後の一滴が地平へと呑み込まれて、蓉司は静かに目を閉じる。
独りじゃない。
たとえそれが、脆く儚い、夢でしかなくても。
永遠どころか一瞬の幻だったとしても。
俺は――、
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