第1章

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「なんだ、言えないのか?」 黙っている八十を見て、日比の眉間の皺が深くなる。 こういうときに八十は自分の要領の悪さが憎らしくなる。 適当な嘘で乗り越えればいい場面でも、頭の回転と、性分がそれを許さないのだ。 「えーと、ですね……」 (仕方ない、本当のことを言うか) デカ女の心象は急降下するだろうが、ここで黙っていたら最悪、退学まではいかないものの停学くらいにはなるかもしれない。 それに引き替え、ここでデカ女との接点が持てるのは良いスタートが切れるのではないだろうか? 過度のストレスで混乱して何か取り返しのつかないことを口走りかけた矢先、思いがけないところから助け船が出された。 「日比教諭。人には、言えないこと、言いたくないことの一つや二つぐらいある。そう攻め立てるように聞いては、彼が酷というものです」 今まで黙ってやりとりを傍観していたデカ女が、その容姿同様の凛とした声で言った。 「……そういえば、君は?」 会話を邪魔された日比は幾分か気分を害したように眉を僅かに動かし、そういえば、先客であるこの少女を何も知らないこと気付いた。
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