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「1―D、“十字 環”」
特に声を張っているわけではない。
だのに、十字の声は耳に残る、不思議な存在感を持っていた。
「私は彼とは初見だが、先程から見るに、とても盗みが出来るような性格には見えない」
(え、俺って以外に好評価……?)
というか済し崩し的に、微妙に庇われるような構図になっている。
「おい、お前」
デカ女――十字環が、次の標的はお前だ、とばかりに八十を睨み付ける。
「お前も自分が潔白なら、そう主張すればいいだろう」
「は、はあ……」
前言撤回。
どうやら、こちらの腑甲斐ない態度にも御冠のようだ。
主張しようにも、自分の発言が更なる悪展開をもたらすのは、八十の不幸度的に明らかなのだが。
生返事が気に入らなかったのか、十字の目付きが更に鋭くなった、気がした。
「別に泊木がやったと決め付けてるわけじゃない。ただ――」
「“ただ”、あまりに手掛かりが少ないから、身近なものを洗うしかない。そうでしょう?」
「……その通りだ」
後手に回りっぱなしの日比が、苦虫を噛み潰したような渋面を作る。
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