第1章

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振り向いた先、朝から八十が探していた生徒――十字環その人が仁王立ちしていた。 「君か、私のことを嗅ぎ回っているという生徒は。なかなか来ないものだから、私から出向かせてもらったぞ」 疑惑に満ちた視線のせいで、悪い目付きが更に強力さを増す。 明らかに、険を孕んだ態度だった。 「……いや、昨日の事と、朝の事の、お礼を言おうと思っただけで」 緊張で擦れそうになる自分の声帯を必死に奮い立たせ、なんとか声を出すことが出来た。 対する十字は堂々としたもので、まるで八十と数年来の知り合いだ、といった感じで落ち着いている。 「昨日と、朝?」 十字は、何の事だ、と言った感じで眉を動かした。 組んでいた腕を顎に当て、しばらく考えていたようだが、こちらを何度か見た後に―― 「ああ、校舎裏と生徒指導室の時の」 こちらが誰か分かったのか、十字の表情が和らぐ。(それでも、目付きは鋭かったが) 「自己紹介は……別に必要ないか、“泊木八十”?」 不適(そう見える)に笑う十字。 その姿があまりにハマりすぎて、まるで悪の組織の女幹部とかを連想してしまった。
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