第1章

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「今朝の事は気にしなくていい。岡本教諭と話していたのだが、どうにも要領を得なくてね。悪いけど、こちらが逃げる口実に使わせてもらったよ。昨日のことは……余計なお世話だったかな?」 とんでもないと、首を振る。 むしろ、あの場から逃げたことが、今となっては悔やまれた。 (まあ、居ても何も出来ないけどね) 「それは何より。じゃあ、私は行かせてもらうよ」 「あ、ちょっと十字さん……」 「十字」 「……え?」 この場から去ろうとした十字が、ターンをするように八十へと振り返った。 「同年なのだから敬称はいらない。十字でいい。更に言うなら、環でも構わない」 そう言われて初めて気付いた。 彼女の纏っている学校指定ブレザーのネクタイの色は、一年を示す水色だった。 「それで何か用かな?」 「え……あ、えーと……」 引き止めてはみたが、話すことが何もない。 色々と考えてはいたのだが、突然の遭遇に頭が真っ白になってしまった。 (今朝呼び出された話を振ろうか……いや、あまりにも無神経な気がするし) 「用が無いなら、行かせてもらうが?これでも、忙しいのでね」 「そ、そうだね、ホームルームも残ってるし……」 「いや、そうじゃない」 「え?」
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