第1章

26/30
前へ
/57ページ
次へ
気の抜けた顔をしている八十とは対照的に、十字は額に手を当て、首肯する。 「君も無関係ではないし、話しておいたほうがいいかもしれないな。……ついてきてくれ」 言うが早いか、十字は既に歩きだしていた。 呆気にとられていた八十は、見失わぬよう、急いでその後を追った。          ◆ (どうしてこんなことに……) 四月にしてはまだ肌寒い風を受け、身震いした。 十字につられてやってきたのは屋上。 本来鍵が掛かっているはずの扉は、十字が何をするでもなく容易く開いた。 今、その当人は金網を背にこちらを向いている。 その瞳は一辺の揺らぎもなく、八十を見つめていた。 「泊木八十君?」 「は、はひ!」 上ずった声で答える。 見るからに動揺し引け腰の男子生徒、片や悠々と仁王立ちしている女子生徒。 他人が見れば、さぞ滑稽な構図に指を差して笑っただろう。 「君は、負けず嫌いな方か?」 「……?」 「難しく考える必要はない。思ったまま答えてほしい」 「はあ」
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加