第1章

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「どうやら、相当悔しいようだね」 八十の苦悩する有様にちょっと引き気味で十字は言葉を続ける。 「私は今、その調査を行っている」 「ん、調査?」 自分の思考とは検討外れの単語が出てきて、おうむ返しに聞き返す。 「そうだ」 カッ、と十字の踵が地面に高い音を踏み鳴らす。 まるでそれが、これから始まる芝居の合図のように。 「真犯人を、吊し上げる」 真犯人? いくら八十が頭の回転が悪く、いつも思考が脱線気味であってもそれが何の真犯人を指すのか、すぐに見当が付く。 「テスト泥棒の真犯人……って事だよな。何でそんなことを」 「私はね、存外、誰かに貶められるのが嫌いでね」 ニヤリとまさしく、悪魔の美笑と表現するに違わない微笑みに十字の顔が歪む。 「相手がどういうつもりで事を起こしたか知らないが、間接的にでも私をコケにした代償はとってもらうつもりだ」 「具体的に、捕まえたとしてどうするんだよ?」 「そうだな。法の裁きなど生温い。それこそ、市中引き回し張りつけ獄問なんていいかもしれない」 (さすがにそれは冗談だよな) まったく冗談に聞こえないが。
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