アイツ

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全然知らない道を アイツは鼻歌を歌いながら 迷う様な素振りも見せずに車を走らせる ただ私は流れる景色を眺めていた 『何かあったやろ』 アイツは突然言った 私は流れる景色を眺めるのをやめて ただアイツを見た 『何があった』 優しいけどNOとは言わせないどこか強い口調だった 私は泣きそうになった アイツは車を止める訳でもなく 真っ直ぐ前を向いて 左にハンドルをきった 『着いた』 アイツがそう言うと そこには広い公園でブランコがあった アイツはドアを開けて出て行った 私も後を追う形でドアを開けた アイツは夜の闇に消えない程度に距離を保つ様に歩いてた 私は走ってブランコに飛び乗った 思いっきりこいで 顔や体に風を感じる 寒いのは分かってるけど 私は思いっきりこいで そのままアイツが隣のブランコに座るのを確認した 『寒いだろ[★]』 そう言いながら アイツはどこから持って来たのか ペットボトルの紅茶を開けて一口飲んだ 私はそんなのお構い無しにブランコに揺られる 少しずつ揺れは小さくなった 私は思いっきり明るい声で開き直った様に 「彼氏がねー元カノと会ってるんだよねー」 アイツは私をただ見ながら 『そう…』と小さく呟いた 「会ってる位なら何とも思わないんだけどー 隠してた事とか 何故か信じられないんだよねー そのうち彼の好きだったところもぜーんぶ嫌になったりしてー」 私は出来るだけ明るく言った 涙が目に広がって 視界が滲んでた ブランコは揺れる事もなくなって 止まった瞬間 私は泣いてしまった 「私は…ただ…私は…」 泣いてるせいで言葉が上手く出ない アイツはタバコを口にして火をつけた 私は知ってる アイツがタバコを吸う理由 前に話してくれた 相手の話を全部聞いてやりたい時 俺がその話の腰を折らない様に 口を塞ぐのにタバコはちょうど良いんだって 私は全部言った 元カノが自殺行為をしてる事も 彼がそれを止める為に居る事も 彼は元カノには想ってないって言ってた事も 私は全部言った。 アイツはタバコを消して 前を見て呟いた 『それでも信じられない…???』 私は ちょっと考えて 小さく頷いた
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